『デザイン史学』第5号(2007年度)

目次

巻頭
デザイン史学研究会について
編集方針について
編集委員会と編集諮問委員会

論文
鮮烈なイメージの文芸季刊誌『ザ・イエロー・ブック』の出現における A・V・ビアズリーの関わり/井上友子

羽原肅朗のエディトリアル・デザイン??そのモダニズム思想と国際タイポグラフィック様式の実践/西村美香

モダン・シーティング、モダン・シッティング??日本女性と椅子/森純子

特別寄稿
ジェンダーとモダン・デザイン??作り手としての女性/使い手としての女性/菅靖子
ジェンダーとモダン・デザイン??生産者そして消費者としての女性/ペニー・スパーク/門田園子訳
桑沢洋子とモダニズム??デザイナーおよびデザイン教育者の視点から/常見美紀子
消費する性としての女性と近代のデザイン/神野由紀
書評
長田謙一、樋田豊郎、森仁史編『近代日本デザイン史』/評者 河野克彦
川村由仁夜『パリ・ファッションにおける日本革命』/評者 ラース・ベルトラム

ノイズ
デザイン史学会の30年/ジョナサン・M・ウッダム/角山朋子訳

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会則

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巻頭

デザイン史学研究会について
編集方針について
編集委員会と編集諮問委員会


論文1

鮮烈なイメージの文芸季刊誌『ザ・イエロー・ブック』の出現における A・V・ビアズリーの関わり

井上友子

キーワード
ヴィクトリア朝、ザ・イエロー・ブック、オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー、オスカー・ワイルド

概要
オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー(以下、ビアズリーとする)が、同時代の美術批評家ロジャー・フライによって「悪魔主義のフラ・アンジェリコ」と評されたことはよく知られている。特に『ザ・イエロー・ブック』出版以降、非道徳的イメージがビアズリー自身や彼の作品に重なり、ジャーナリズムによる批判・揶揄の標的となった。しかし、ビアズリーの作品が『ザ・イエロー・ブック』に魅力を与え、人々の関心を呼び起こし、世間に話題を提供したことは事実である。

本稿では、奇抜で衝撃的な魅力を有した『ザ・イエロー・ブック』が、時代の象徴的存在と認められたのは、ビアズリー作品が備える魅力によるということを明らかにする。その過程で、ビアズリーに関係した画家、著述家、美術批評家、出版者の著述が掲載された書籍、雑誌、新聞記事などを資料とし、(1)ビアズリーが『ザ・イエロー・ブック』の美術部門の責任者となり、解雇されるまでの経緯、(2)『ザ・イエロー・ブック』へのビアズリーの芸術的な関与、(3)『ザ・イエロー・ブック』が当時の社会に及ぼした影響、(4)ビアズリー解雇後の『ザ・イエロー・ブック』の変貌などについて考察する。

その結果として、ビアズリーが」『ザ・イエロー・ブック』の存在意義を高めたことに強く関与し、しかも『ザ・イエロー・ブック』を通して社会的にも彼の才能が広く認められるようになったことを明らかにする。このことは、ビアズリーが「悪魔主義」「非道徳」的意味のみで人々の関心を引いていたのではなく、彼の作品が機知に富む魅力的な力を備えていたことの証左であると考える。


論文2

羽原肅朗のエディトリアル・デザイン――そのモダニズム思想と国際タイポグラフィック様式の実践

西村美香

キーワード
エディトリアル・デザイン、モダニズム思想、国際タイポグラフィック様式、機能性、少ないほど豊か、超正統派主義

概要
羽原肅朗は1935年に広島で生まれた。1960年代から1980年代半ばにかけてエディトリアル・デザインの分野で活躍したデザイナーである。建築雑誌『SD』誌の編集が、とくにそのなかでも知られており、スイス発祥の国際タイポグラフィック様式と呼ばれるエディトリアル・デザインのスタイルを日本語環境の組版に持ちこみ前衛的試みを実践した。モダニズム思想に貫かれた『SD』誌上での試みは、しかしあまりにも厳格で多様性に乏しいため、大衆の通俗的な好みからかけ離れている、あるいは技術的制約から抜けきれていないなどのいくつかの理由から、発展的に後続に受け継がれることはなかった。虚飾に走らず単純であること、可視性と可読性を重視した機能性、数学的思考から生み出される秩序をもった普遍性、羽原はそれらを自身のデザインに求め、実現しようとした。技術革新とともに機能の意味は変貌し、経済発展とともに時代風潮も変化するなか、羽原の試みはいかなる意義をもつのか。「少ないほど豊か」というミース・ファン・デル・ローエの言葉が羽原肅朗の信条であった。


論文3

モダン・シーティング、モダン・シッティング――日本女性と椅子

森純子

キーワード
椅子、モダニズム、女性、日本

概要
1920年代から30年代にかけて、日本は西洋の生活習慣を見習いながら、自国の近代化の理念を追求していた。1853年、鎖国は終焉を迎え、日本は技術、情報の立ち後れに直面する。それに追いつくために、日本政府は、伝統的な日本の生活習慣を西洋のものへと転換させることが生活の合理化をもたらすと信じていた。政府、知識階級はこの改革を奨励し、全国規模の展覧会などを支援した。とくに、日本住宅に存在しなかった椅子はこの改革の鍵とみなされた。家庭での椅子の欠乏が、おそらく近代化への妨げと見ていたのであろう。椅子は日本の生活習慣を現代化また再構成するうえでの象徴となっていく。本論文は、1929年代および30年代に、日本の近代化を、日本女性がどのように椅子を扱い体験していたかを通して検証する。この時期、日本女性は、服装そしてライフスタイルを通して近代化を表現するようになった。彼女たちは、現代化の鍵となる椅子を様々な場で使い、日本の生活様式のなかでの椅子の使用に貢献していった。彼女たちは、デパートのレストランといった公共の場で、椅子にどのように座るかを学んでいく。彼女たちの椅子に関する知識は、私生活へと持ち込まれ、椅子を使っての現代住宅の形成、またそのなかでの子ども部屋の編成に与えた影響は無意味なのではなかった。


特別寄稿

ジェンダーとモダン・デザイン??作り手としての女性/使い手としての女性/菅靖子
ジェンダーとモダン・デザイン??生産者そして消費者としての女性/ペニー・スパーク/門田園子訳
桑沢洋子とモダニズム??デザイナーおよびデザイン教育者の視点から/常見美紀子
消費する性としての女性と近代のデザイン/神野由紀


書評

長田謙一、樋田豊郎、森仁史編『近代日本デザイン史』/評者 河野克彦
川村由仁夜『パリ・ファッションにおける日本革命』/評者 ラース・ベルトラム

ノイズ

デザイン史学会の30年/ジョナサン・M・ウッダム/角山朋子訳


投稿要項


会則


執筆者について