第10回 研究発表会

日時=2006年12月2日(土)午前10時から
会場=島根県立石見美術館(講義室)

研究発表1
発表者=松隈達也(福岡大学大学院博士後期課程)
テーマ=ヴィクトリア朝初期イギリスのデザインと著作権

キーワード
ヴィクトリア期イギリス、デザイン問題、著作権、コピーライト委員会、自由貿易、オリジナリティ、道徳

概要
本報告では、1840年イギリス下院の「デザインの著作権に関する特別委員会」(以下「コピーライト委員会」)を分析にする。19世紀イギリスにおける工業デザインの問題は、N・ペヴスナー、A・フォーティなど多くの研究者が言及してきた問題である。しかし、工業デザインの問題とイギリス議会とを具体的に考察した研究はない。したがって、ここでは「コピーライト委員会」での証言等を分析し、その上で19世紀前半、政治問題化したデザイン問題の本質を解明したい。「コピーライト委員会」で問題視されたのは、工業製品デザインの著作者・製作者に対する一定の権利についてである。デザインの公表後、製作・販売において特定期間は著作者が独占的権利を有する、つまり著作権保護の問題が議論された。実際、「コピーライト委員会」以前から著作権侵害行為は産業界で広範に見られ、不満や改善を求める声が非常に高まっていた。また著作権に関する現行法はまったく形骸化し、著作権法の不徹底によりデザインの質が低下したという意見も少なからず述べられていた。以上の状況から「コピーライト委員会」が組織され、著作権保護の期間延長に関する調査が着手された。保護期間の延長により、製造業者の不満解消、工業製品デザインの質の向上、イギリス産業の活性化という狙いがあったのである。しかしながら、「コピーライト委員会」での証言は予想外のものだった。たしかに、著作権侵害の深刻な被害を受けているとの切実な証言もあったが、注目すべきは保護期間の延長反対あるいは保護不要とする証言である。反対派の根拠は、法的制約・制限によって産業界は国家の介入を受け、自由競争・自由貿易の原理が脅かされるというものだった。ここから工業デザイン問題を取り巻く同時代の政治性が明確に看取できる。さらに審議中には、デザインのオリジナリティ保護や道徳の問題など19世紀半ば以降に繋がる重要な論点が提出された。

研究発表2
発表者=河野克彦(島根県立石見美術館)
テーマ=近代日本のデザイン教育――安田禄造とウィーン