日時=2007年3月17日(土)午後1時から
場所=京都女子大学(C407教室)
研究発表1
発表者=土屋伸夫(筑波大学大学院博士課程)
テーマ=勝見勝とデザイン運動――日本デザインコミッティーを中心に
キーワード
勝見勝、デザイン運動、グッドデザイン、日本デザインコミッティー、銀座・松屋
概要
本発表は、戦後日本におけるデザインコーディネーターとして重要な役割を果たしたとされる勝見勝が、デザイン運動の興隆・発展にどのように寄与したかを日本デザインコミッティーでの勝見の活動を中心に解明しようとするものである。
デザイン運動とは、日本国内における芸術運動・産業運動・社会運動・消費者運動の側面を包括的または部分的に持ったものを指す。特に、グッドデザイン運動は消費者運動(市民運動)に対応するものである。
デザインギャラリーの現状は、1985(昭和60)年にオープンした「ギャラリー・間」に続き、1986(昭和61)年にオープンした「ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)」が20周年を迎えた反面、企業の財政・経済状態による活動の縮小または休止状態のデザインギャラリーも少なからずある。
さて、デザインギャラリーそのものについては、その系譜となるものが充分研究されてこなかった。つまり、先行研究がほとんど見あたらない。
また近年、芸術支援学においては、筆者の研究主題である「デザインギャラリー」が、分野別に専門化しつつあるため、その全貌と系譜を明らかにすることがもっとも重要視される。
デザインギャラリーの研究の根幹を形成するために、勝見の日本デザインコミッティーの活動を通じ、そのデザインギャラリー展の活動を明らかにすることは、様々な方面から意義がある。
従って、本発表における勝見勝とデザイン運動に関する考察は、今後「デザインギャラリーの研究」における根幹として重要な役割を果たし、かつ芸術支援学的考察が新たな知見を生み出す要因となる。
今回の発表の目次項目は、以下のとおりである。
(1) 研究の目的と方法
(2) 勝見勝の略歴
(3) デザイン運動の担い手と区分
(4) デザイン事典におけるデザイン運動の位置づけ
(5) 日本デザインコミッティーのデザイン運動
(6) 結論
(7) 今後の課題
研究発表2
発表者=藤原美樹(福山大学)
テーマ=『金瓶梅』にみられる生活様式と室内意匠に関する研究
キーワード
『金瓶梅』、翡翠軒、文人、蘇軾、東坡椅、室内意匠
概要
本研究は、『金瓶梅』の記述や挿図を主な文献史料として、明代の豪商一家の生活様式と室内意匠の機能的、装飾的効果およびその時代の嗜好性や時好性について明らかにすることを目的とする。『金瓶梅』は、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』とともに四大奇書のひとつとして知られ、日常生活が詳細に記述される全100回の長編小説である。
これまで、豪商一家における女性の地位と住まいとの関係および住まいにみえる擬似的仙界の場所について明らかにした。また、家具・室内意匠に関わる用例に着目し、男性の場所とされる書房(書斎)、人生儀礼の中心的場所である大廳(客間)、女性の住まいに配置される家具・室内意匠の特性とそれらが構成する室内の性格についての考察を行い、家具や室内意匠は、社会的身分や生活様式を表象するものであることについて明らかにした。また、場所を構成する「隔」のうち、屏風についての考察を行い、屏風の形態、用材、図案・紋飾により、それぞれの場所の特性が構成されるとともに、登場人物の社会的身分や生活様式が表現され、使用に関しての社会規範がみえることなどについて明らかにした。
本発表では、『金瓶梅』にみえる書房のうち、主人公・西門慶の夏用の書房「翡翠軒」を中心に、西門慶の私的生活様式と室内意匠とのかかわりについて明らかにし、これまで実体のつかめなかった設計者としての文人とのかかわり、特に北宋代の文人・蘇軾(號は東坡居士)が設計し、愛用したとされる坐具「東坡椅」の復元を試み、その根底にある設計思想について検証した結果、おもに次のことが明らかになった。
(1) 士大夫(文人)たちの生活は、官僚社会における秩序的な支配階層である公的生活様式と精神性重視の私的生活様式の生活であり、私的生活様式は、「書房」において行われた。
(2) 文人たちの理想とする「書房」は、その内外に自然を必要とし、清浄でなければならない。室内の書案上に精神性のある文房具ほかを配置し、賞玩することにより、精神の隠逸を求めた。
(3) 「書房」は、書を読み、音楽を奏で、体力増強の養生法を実践し、午睡を楽しむための場所であり、私的接客場所である。
(4) 文人たちは、精神を満足させ、養生法の実践や美的生活のために家具、文房具、生活用具、室内意匠を設計した。その設計思想は、精神と身体の養生実践のためであり、当時から「感性工学」や「人間工学」にもとづいて設計されていたことが明らかである。
(5) 書房「翡翠軒」はその名称より、不老不死の願いとともに、豊穣、生命、再生の願いがみえる。
(6) 蘇軾が設計し、愛用したとされる坐具「東坡椅」は、書房に配置される養生と精神の安寧のための坐具である。更に、塔脳の装飾モチーフは「霊芝」であり、その形態より不老不死の願いがこめられることが明らかであり、これが清代の太師椅の塔脳意匠の起源になったと考えられる。
研究発表3
発表者=松下久子(長崎県文化振興課学芸員)
テーマ=19世紀後半の三川内焼について――神戸のデアス商会との関係から